平民新聞 其の一 発行 日本私大教連平民部 創刊の辞 平民部長 野口邦和 今期、日本私大教連の専門部として新設されました平民部の部長を務める野口邦和です。よろしくお願いします。 平民部の“平民”は“平和と民主主義”のいわば短縮形です。日本私大教連は、「大学を平和と民主主義の拠点に」を目標にして、大学と職場に“平民ネットワーク”を構築していく方針を掲げ、平民部を中心に取り組みを開始しました。その一つが本紙“平民新聞”の創刊です。この名称をご覧になって、明治末期の1903年に幸徳秋水と堺利彦が創刊した「平民新聞」を想起される方もおいでになるかもしれません。日露戦争下の弾圧に抗し、「平民主義・社会主義・平和主義」を掲げ、「満天下の同主義者が公有の機関」として発行された新聞です。もちろん、それを復刊させようなどという大それた企てではありませんが、私たちの“平民新聞”が今日のキナ臭い政治情勢の中で“平和と民主主義を守り発展させる”ための様々な取り組みの交流の場になることを心より願っています。 また“平民ネットワーク”のもう一つのメディアとして、日本私大教連ホームページに平民部のコーナーを新設しました。こちらも情報と運動の交流の場として充実させていきたいと考えています。 さて、私ごとで恐縮ですが、私の専門は放射線防護学です。今期の平民の課題との関連で紹介しますが、専門家としての立場から「原潜ホノルル放射能漏れ事件の意味するもの」(NERIC NEWS 06年11月)、「原子力空母の横須賀配備で問われているもの」(同08年2月)、「原爆症認定行政の何が問題か―問われる厚労省の切り捨て行政―」(同08年4月)を発表しました。原爆症認定行政問題では、認定の審議を行なっている審議会の委員のあり方を問題のひとつとして取り上げています。私たち大学人が“政府系学者”“御用学者”であってよいのか、を問うた論文です。日本私大教連HPの平民部のページからアクセスできますので、ご一読いただければ幸いです。 今後、各地区・各単組の平民活動や、平民活動に関する組合員のみなさんの忌憚のない意見、論文・著書などを「平民新聞」やHPで紹介していきます。どしどしお寄せください。 平和と民主主義をめぐる最近の動向 日本私大教連の08春闘方針は、平民活動の柱として、(1)新テロ特措法廃止・自衛隊海外派遣恒久法制定反対、(2)歴史的事実の歪曲・ねつ造反対、(3)米軍基地再編・強化反対、(4)憲法審査会の始動反対、(5)大学・職場での憲法9条を守る活動の強化、の5つをあげています。以下、最近の情勢との関わりで、この5点について、重点を述べたいと思います。 自衛隊海外派兵恒久法制定の動きに注視を (1)の課題では、自衛隊海外派兵恒久法制定の動きが重要です。3月26日付毎日新聞は、福田首相が同月25日、「首相官邸で自民党の山崎拓前副総裁、中谷元・安全保障調査会長と会談し、自衛隊の海外派遣の一般要件を定める『恒久法』を今国会に提出することで一致した。首相は同日夜、記者団に『国会中に法案をまとめたいということですね。特に民主党からやるべきだという話はずいぶん前から言われていますのでぜひやりたいと思う』と述べ、恒久法整備への意欲を強調した」と伝えています。「恒久法」は、自衛隊の海外派兵をいつでも可能にし、武器使用の緩和などを通じて、海外での武力行使に道を開き、憲法九条を否定するものです。福田内閣が今通常国会に法案を提出し、秋の臨時国会で制定をめざしてくる可能性は非常に大きいといえます。今後の重要な政治課題として注視する必要があります。 沖縄戦の集団自決―問われる文科省の教科書検定―  (2)の課題では、注目すべき非常に大きな動きが最近ありました。太平洋末期の沖縄戦で旧日本軍が集団自決を命じたとした大江健三郎さんの著書『沖縄ノート』などの記述により名誉を傷つけられたとして、旧日本軍の元守備隊長と遺族が大江さんと出版元の岩波書店に出版差し止めと慰謝料などを求めた訴訟の判決が3月28日に大阪地裁でありました。判決は、集団自決に「旧日本軍が深くかかわったものと認められる」、名誉毀損は成立しないとして原告らの請求を棄却しました。思い起こせば、この訴訟における原告の軍命否定の主張を理由のひとつとして文部科学省は昨年3月、高校日本史教科書の集団自決についての記述から「軍の強制」の言葉を削除させる検定意見を付け、教科書会社に記述を削除させたのでした。しかしその後、検定を担当した教科書審議会の日本史小委員会では集団自決についての審議は一切なく、文科省の教科書調査官の検定意見の原案がそのまま通ったことが明らかになっています。しかも、小委員会には「靖国史観」につながる教科書検定調査審議委員が入っていたことや、沖縄戦の専門家が一人もいなかったことも国会の審議の中で明らかになっています。歴史的事実を歪曲し、文科省(国)の都合のよいように教科書を書き換えることは教育の国家統制をより強くするものであり、決して許されるものではありません。大阪地裁判決を受け、改めて集団自決に関する文科省の検定意見の撤回と教科書の記述回復を求める運動が重要です。 地位協定の見直し、米軍基地の縮小・撤去を (3)の課題では、八王子市で起きた小学生ひき逃げ事件(05年12月)、横須賀で起きた女性撲殺事件(06年1月)、広島で起きた女性集団強姦事件(07年10月)、沖縄で起きた女子中学生強姦事件(08年2月)、横須賀で起きたタクシー運転手刺殺事件(08年3月)など、米兵による恐るべき犯罪との関わりでも米軍基地問題を捉える必要があります。米兵による犯罪多発の温床になっているのが、日米安保条約にもとづいて定められている地位協定です。地位協定は在日米軍のさまざまな治外法権的な特権を定め、国土の無償提供や、基地返還の際の原状回復・補償義務の免除、米軍基地の排他的使用権、公共サービスの利用優先権、各種税金の免除など、その範囲は多岐にわたっています。米軍、米兵による犯罪、事件・事故の取り扱いについて特権を定めているのは地位協定17条です。米兵が日本国内で罪を犯しても、「公務執行中の作為又は不作為から生ずる罪」については米軍が優先的裁判権を有し、米軍が「公務中」と判断すれば、どんな凶悪犯罪であろうと日本側は裁くことができません。「公務外」であれば日本側に優先的裁判権がありますが、米兵の身柄が米軍側にある場合は、起訴するまで米側が確保することができる規定になっています。罪を犯した米兵が基地内に逃げ込み、起訴するまで逮捕できないため、その間に米兵が米本国に逃亡することさえありました。 私たちの仲間である沖縄国際大学(宜野湾市)では2004年8月、米軍ヘリ墜落事故が起こっています。この時には米軍が地位協定22条を盾に事故現場を封鎖したり、沖縄県警の現場検証を拒否したりと横暴の限りを尽くしました。 在日米軍のさまざまな治外法権的特権を定めている地位協定の改定を求めていくことは差し迫った課題です。同時に、米軍基地のある限り凶悪な米軍犯罪は決してなくならない、というのは国民の偽らざる実感だと思います。日米安保条約を破棄し、米軍基地を撤去させる国民的な大運動の構築が私たちに求められています。  4月3日、在日米軍への思いやり予算に関する現行日米特別協定を3年間延長することが衆院本会議で可決されました。思いやり予算の始まった1978年以降の総額は約3兆5000億円にのぼります。思いやり予算は地位協定にある日米両国間の経費分担の原則にも反するものであり、即刻撤廃すべきです。 8月には通常型空母キティホークに代わって、ニミッツ級原子力空母ジョージ・ワシントンが横須賀に配備されようとしています。海外に米原子力空母が配備されるのは初めてのことです。原子力空母が深刻な炉心事故を起こす危険を心配するのは当然ですが、「最強の海軍兵器」と言われるニミッツ級原子力空母の横須賀配備は、太平洋およびインド洋の周辺各国・各地域に対する米空母打撃群による先制攻撃戦略、殴り込み戦略の拠点として米海軍横須賀基地を格段に強化するものでもあります。原子力空母の横須賀配備に反対する運動も重要です。 改憲派が新憲法制定議員同盟を立ち上げ   (4)、(5)の課題では、3月に発足した新憲法制定議員同盟の動きを注視する必要があります。同同盟は会長に中曽根康弘、会長代理に中山太郎(自民)、顧問に安倍晋三、伊吹文明、谷垣禎一(以上自民)、鳩山由紀夫(民主)、綿貫民輔、亀井静香(以上国民新)など、副会長に津島雄二、古賀誠、与謝野馨、高村正彦、町村信孝、額賀福志郎(以上自民)、前原誠司(民主)などを据え、自民党ばかりでなく民主党や国民新党幹部も加わっているのが特徴です。2007年5月、安倍内閣の下で改憲手続き法である国民投票法が強行成立されましたが、国民多数は九条の改定に反対しています。同同盟の発足総会では「九条の会」の名指しし、「九条の会」に対抗する「拠点となる地方組織づくり」を方針として確認しています。「日本と世界の平和な未来のために、日本国憲法を守るという一点で手をつなぎ、『改憲』のくわだてを阻むため、一人ひとりができる、あらゆる努力を、いますぐ始めることを訴え」た「九条の会」のアピールを大学・職場で拡げるなど、憲法九条を守る活動の強化がますます重要になっています。 豪雨のなかの静かな・熱い集会!  「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民集会」に6000人の県民結集                        鎌田 隆(沖縄国際大学)  3月23日、本島中部の北谷町で開催された同集会は、当初、同地で2月に発生した米兵女子暴行事件に抗議するために企画されたが、同事件の被害者が告訴を取り下げたために、米兵による飲酒運転や住居侵入、陸軍兵による女性暴行事件なども含めて復帰後止まることを知らない米軍・米兵絡みの事故・事件に抗議する集会として、沖縄県子ども会育成連絡協議会、県婦人連合会などの社会教育団体など6団体が幹事団体となる99団体を網羅する実行委員会形式で開催された。  与党からも公明党県本部が参加したが、自民党県連は不参加、仲井真県知事も「被害者の心情を慮って」という筋違いな理由で不参加であった。開会直前から降り始めた、沖縄でも珍しい豪雨のなかで濡れねずみの参加者は、壇上の発言者の言葉を静かな怒りをもって聞き入った。  この集会の特徴は、社会教育団体が呼びかけ、市町村がひとつになった新しいタイプの運動であったことである。また発言者が婦人、老人、教育者であり、基地周辺地域の直接の被害者であったことである。  なかでも、沖縄男性と結婚し、米兵による性犯罪の被害者であるオーストラリア女性の言葉を振り絞るような発言に会場は感動を受けた。 「心の傷は永遠である、日本は戦場である、誰でも被害者になり得る、辛い警察での取調べや法廷は第二のレイプであった、子どもの励ましで訴える勇気が湧いてきた、ずっと一人ぼっちであったが、今日沖縄の人々と心を交わしあえた・・・。」 集会では、@日米地位協定の抜本改正、A米軍による県民の人権侵害根絶のための政府の実効ある行動、B米軍基地縮小と海兵隊を含む米軍兵力の削減、などを日米両政府に求める集会決議を採択し、人権を守ることから保障させる社会運動へ、歩みを進めることとなった。 このように、米軍・米兵による事故・事件のまさに被害者である県民の悲痛な要求と願いが爆発した、静かでも熱い「県民党」による集会(地元紙)であり、8万人や11万人が参加した過去の大集会にもまして切実な意義のあるものであり、不参加の県知事も集会後それを認めることとなった。 この集会の成功は、次のことを示している。@人権を守る闘いは、環境を守る闘いよりさらに思想信条を超えた多数派を形成することを可能とし、多くの県民の総意となった、A少女に落ち度があるという主張=自己責任論などのイデオロギー攻撃を越えた集会であり、仲井真県知事の「被害者の心情を慮って」という筋違いな欠席理由は集会への妨害行為であった、B沖縄の地位協定の改正や基地撤去が単なるスローガンでなく、県民の切迫したぎりぎりの願いであることを如実に示すこととなった。これまで、多くの集会に参加してきたものとして、基地闘争が質的に発展した集会であったことを痛感することができたのである。(写真=筆者撮影)