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「教育振興基本計画の策定に向けた意見の募集」への提出意見
日本私立大学教職員組合連合中央執行委員会
はじめに 私たちは先般の教育基本法の全面「改正」に対して、極めて重大な多くの問題を有するものであることを指摘し、これに強く反対した。「改正」により盛り込まれた「教育振興基本計画」(以下、「基本計画」)についても、「教育水準の維持向上」という名目で、教育内容統制を含む「総合的」な施策を策定・実施する権限を、政府に無限定に付与するものとなりかねないことを厳しく批判した。この懸念が杞憂でないことは、沖縄戦の記述をめぐる教科書検定問題ひとつとっても、明らかである。 こうした立場から、私たちは「基本計画」の策定に当たり、その内容を「全国的な教育の機会均等と教育水準の維持向上を図るため」(「改正」教育基本法16条)の条件整備・充実(とりわけ財政面の抜本的拡充)に限定し、政府及び行政が教育の自主性・自律性を損なうことのないように最大限の配慮をなすことを強く要望する。 以下、高等教育、とりわけ私立大学に係る部分を中心に意見を述べる。
T 「検討に当たっての基本的な考え方について(案)」(別添資料1)に関して いわゆる「遠山プラン」に始まる「大学構造改革」は、大学を経済競争力強化のために動員することを主たる目的とし、基盤的経費である私大経常費補助を抑制・削減しながら、政策誘導によって「競争原理」「市場原理」に大学を強引に巻き込むという手法により展開されてきた。すなわち、「規制改革」による事前規制から事後評価への転換、「21世紀COEプログラム」や国公私立大学を通じた「大学改革」予算などの競争的予算の急激な拡大、「新成長経済」の環としての「大学・大学院改革」などの政策が、急速に推し進められてきた。 こうした政策によって、様々な「評価」や競争的予算に対応するための業務激増による教職員の疲弊の蔓延や、競争的予算の拡大にともなう大学間、学部間、分野間格差の拡大、経済貢献に直接あるいは短期的に役に立たない学問研究の衰退、異常な高学費の更なる高騰、株式会社立大学における法令違反など、様々な弊害が生み出されていることは、各方面より相次いで批判がなされているところである。高等教育をめぐる現状は、経済力強化への動員と競争を軸とした「改革」によって、教育・研究の荒廃に直面しているといっても過言ではない。 しかし、「(1)我が国教育の成果と現状の課題」においては、こうした現状と構造的問題についてはまったくふれないまま、「我が国の持続的発展のためには、我々の意識や社会の様々なシステムを、従来の経済発展だけではない、新たな価値を重視する方向へと転換していくことが求められている」との抽象的な認識を示すのみであり、極めて不十分である。また、意味内容をまったく示さないまま「新たな価値」という語を用いて今後の方向性を提起していることも問題である。およそ行政は日本国憲法の原理・理念を実現する義務を負っているのであって、憲法の理念を超える「新たな価値」を「基本計画」で示すことなどあり得ようがない。「新たな価値」でなく憲法原理を実現する方向性をこそ明示することを要望する。 また、「2.今後求められる教育施策の基本的方向」「(2)今後の教育施策の目指すべき基本的方向」においても、「知識基盤社会」において高等教育が重要な役割を果たすとしながら、高等教育が直面している現状を何ら検証しないままに、「競争的環境の中で、個々の学校がその個性・特色を発揮していくことが必要である。特に、大学に関しては、教育・研究・社会貢献という使命・役割を踏まえて、個性・特色の明確化を図っていくことが一層重要になっている」として、従来同様の主張を繰り返している。これは、「競争的環境」や、経済活動への従属に矮小化されている「社会貢献」を前提とする提言であり、これでは実際の諸問題を解決する方向を指し示すものとなり得ず、従って10年先を見通した基本方向たり得ない。 「基本計画」は、この5年余り有無を言わさず推進してきた「大学構造改革」の弊害を厳密に検証・総括した上で、その基本的考えと具体的施策を示すものとすることを要望する。 さらに付言すれば、現在の大学・短大の規模ならびに進学率といった最も基本的かつ重要な部分についての評価がまったく抜け落ちていることは極めて不可解である。本年9月18日に中教審大学分科会の小委員会が示した「学士課程教育の再構築に向けて(審議経過報告)」は、「本委員会は、大学進学率等が過剰であるという立場をとらない」と言明しているが、「基本計画」においてこそ、現状をどう評価し将来に向けてどういう展望を示すのか明示することを要望する。
U 「重点的に取り組むべき事項について(案)」(別添資料2)に関して 1.「3 教養の厚みを備えた知性あふれる人間を養成し、社会の発展を支える」 (1) 「(5) 大学教育の質の向上・保証を推進する」について 「事前評価の的確な運用」においては、「国際的に通用するための最低限の要件を明確化する観点」から、教員組織、施設・設備等に関して大学設置基準等を見直し的確な運用を進めるとして、「事前評価」のあり方を見直すことが示されている。事前規制の大幅緩和により、私立大学においても学部・学科の改編が爆発的に増加している。この中には、現場の教職員の合意を得られないような理事会主導の強引な組織改編も少なくなく、したがって、株式会社立大学での法令違反状態とまで至らなくとも、問題を抱えたまま見切り発車しているようなケースも少なくない。また、学生確保のために人気の出そうな学部・学科が乱立し、学部・学科名称、学士号の種類も、中教審が問題化せざるを得ないほど急増している。その一方で、学生が集まりにくい学部・学科は、「人気がない」という近視眼的な理由で切り捨てられているのである。 こうした事態に鑑みれば、大学たるにふさわしい的確な基準に基づく事前規制は当然必要である。しかし、資料からはどのような「事前評価」の基準を設定するのかまったく判然としないので、基本的な考え方を明示すべきである。また、大学設置基準等の見直しに向け、上述したような問題状況に加え、私立大学の教育研究環境や教職員の労働実態を十分に検証することを、「基本計画」に盛り込むよう要望する。さらに付け加えれば、私立大学においては、設置基準等の見直しに対応する際に人件費等の費用負担が生じる場合が多いので、相応の財政支援等をあわせて盛り込むよう要望する。
(2) 「(6) 大学等の教育研究を支える基盤を強化する」について この項では、「基盤的な経費を確実に措置する」としているが、これが単なるお題目とならないよう、具体的な措置のあり方、明確な数値目標を示すことを強く要望する。 @高等教育予算の抜本的な増額に関して 多方面から繰り返し指摘されていることであるが、我が国の高等教育予算は、対GDP比でOECD加盟国中最低水準(0.5%)に置かれている。我が国の大学進学率が50%を超えていることからすれば、各国平均の1.1%水準でも低すぎるのであって、さしあたりその水準に引き上げることは喫緊の課題である。高等教育予算について、まさしく「10年先を見通した」基本的方向として各国平均の1.1%水準に引き上げることを目標値として示し、それを実現するための具体的な年次計画を盛り込むよう要望する。このことなしに、基盤的経費の確実な措置は保障されない。 A私立大学等経常費補助(以下、私大経常費補助)の拡充に関して 特に私大経常費補助は、確実な措置どころか、長年にわたり抑制・削減傾向に置かれている。私立大学の経常的経費総額に対する経常費補助の割合(補助率)は、1980年度の29.5%をピークに減少を続け、2005年度には11.7%まで大きく落ち込んでいる。 また、経常費補助のうちの「一般補助」が、本来的に基盤的経費の本体をなすものであり、その拡充こそが私立大学の教育研究を支える基盤を強化し、教育・研究の質の向上、学費負担抑制に資するものである。にもかかわらず、経常費補助に占める一般補助の割合は66.1%までに縮小されてきたのである。代わって特別補助は、この20年間で6.3%から33.9%にまで急伸したのである。経常費補助率の大幅な低下と合わせれば、私立大学の基盤を支える一般補助がいかに削減されてきたか明らかであろう。 1975年に制定された「私立学校振興助成法」においては、国は経常的経費の「2分の1以内を補助することができる」と規定されている。これに対して同法に対する国会附帯決議において、「できるだけ速やかに2分の1とするよう努めること」が要請されている。また特別補助については同7条に「特定の分野、課程等に係る教育の振興のため特に必要があると認めるとき」に「補助金を増額して交付することができる」とされている。この22年あまりの施策は、こうした法規定と立法経緯をなし崩し的に変質させるものであった。 したがって、「基本計画」においては、「競争的環境」を強調して一般補助を削減し「競争的予算」を重点拡大させる方針を改め、一般補助の抜本的拡充を中心とした経常費2分の1補助実現を目標に明示した上で、その実現に向けた明確な年次計画を掲げることを強く要望する。それこそが、学部学生の7割以上の教育を担っている私立大学への「基盤的経費の確実な措置」を保障するものである。
2.「4 安全・安心で質の高い教育環境を整備する」「(4) 教育費負担を軽減する」について (1) 「奨学金事業等の充実」について @1984年「日本育英会法」に対する附帯決議、2003年「日本学生支援機構法」に対する附帯決議において、「無利子奨学金を根幹」「基本」とすることが重ねて要請されているにもかかわらず、この間の事業の「充実」においては、事業費・貸与人員ともに無利子奨学金がほぼ横ばいなのに対し、有利子奨学金は大幅に拡大されてきた。今や事業費・貸与人員ともに有利子奨学金が主となっている。 「基本計画」には、こうした方針を改め、無利子奨学金を根幹、有利子奨学金を補完的措置とすることを基本として、奨学金の拡充を進めることを明確に示すことを要望する。 A我が国の奨学金は、国際的常識からすれば単なる「教育ローン」に過ぎない。本質的には、負担を軽減する制度ではなく、負担を先送りする制度である。欧米諸国のほとんどは“Grants”すなわち返還の必要のない給費制奨学金制度を何らかの形で有している。国際通用性の観点からも、給費制奨学金制度の創設を課題として明示し、その実現に向けた計画を明らかにすることを要望する。
(2) 「私学助成の充実(再掲)」について 「再掲」ではまったく意味不明である。私学助成の充実による「教育費負担軽減」の具体的内容を明らかにすることを要望する。 また、これに関して現在、学校法人が実施している「経済的に就学困難な学生に対する奨学事業」に対する補助は、私大経常費補助のうちの一般補助の加算基準の一つとして措置されているが、その額は非常に不十分である。少なくとも、国立大学法人の学費減免事業への補助と同水準となるよう拡充することを盛り込むよう要望する。
(3) 「民間からの資金の受け入れ促進等のための仕組みの充実」 「民間資金の受け入れ」「寄附文化の醸成」の中に、「高校生・大学生の教育費負担の軽減等のため、税制上の措置等の充実を図る」ことが埋め込まれているのは、まったく不可解である。 私たちの加盟組合が毎年行なっている「家計負担調査」をはじめ、多くの同種の調査結果には、極限に達している家計負担に対する、保護者・学生の悲痛な叫びとも言うべき声が生々しく浮かび上がっている。「教育費負担の軽減」は、教育の機会均等実現の上でも、大学における教育・研究の発展にとっても、待ったなしの課題である。 したがって、「基本計画」には、家計負担軽減に資するための具体的な施策を明記するよう強く要望する。例えば、私たちが一貫して要求してきた「学費直接助成制度の創設」を「基本計画」に盛り込むことを要望する。これは、多くの都道府県が実施している「私立高校生の授業料等を軽減する補助」に相当するものである。 また、税制上の措置について言えば、文部科学省は平成20年度税制要望において、「現行の特定扶養控除制度に加え、高校生・大学生の授業料負担を勘案した教育費控除制度を創設する」ことを要望しているが、「基本計画」においては、このような税制上の措置を段階的に拡充する具体的方向をはっきりと示すべきである。私たちはその一つの方策として、私立大学・短期大学の学費を所得控除対象とする「私学教育費減税」を実施することを要望する。
(4) その他 日本政府は、国際人権規約「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」13条(c)の、いわゆる「高等教育の漸進的無償化」条項を留保し続けている。これに対して、国連の「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会」は2001年に、留保の撤回の検討を強く求め、この勧告を実施するためにとった手段について、2006年6月末提出期限の第3回政府報告書に詳細に記載することを要求した。同条項を留保しているのは、締約国146カ国のうち、我が国とルワンダ、マダガスカルの3カ国のみである。国際社会において甚だ不名誉な姿を晒していると言わざるを得ない。 私たちは、最低限、国際人権規約の「高等教育の漸進的無償化」条項に対する留保の撤回を検討課題とする旨「基本計画」に記載することを強く要望する。
V 全体として これまで縷々述べてきたように、「基本計画」策定に当たっては、この間の施策とその結果、現状について厳密な検証・評価をすべきである。またその際には、現実に教育・研究を担っている私立大学の教職員と、教職員組合はじめ諸団体から広く意見を聴取する機会を設けるよう要望する。それなくして血肉の通う計画を策定することはできない。 また、今回のように、意見募集やいわゆるパブリックコメントを実施する際には、周知を徹底し、十分な期間を設けること、またタウンミーティングのように、広く市民に意見を求め議論できる機会を設けるべきである。十分に国民に意見をもとめ、会議は公開し、情報を積極的に開示する姿勢をとるべきである。計画策定を拙速に進めることのないよう強く要望する。
以上
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