(Wordファイル)

日本私立学校振興・共済事業団

学校法人活性化・再生研究会「最終報告」に対する見解

 

                                                                                                                                                20071021

日本私大教連中央執行委員会

 

はじめに

200781日、日本私立学校振興・共済事業団(以下「私学事業団」)に設置された「学校法人活性化・再生研究会」(以下「再生研」)において検討が進められてきた「私立学校の経営革新と経営困難への対応」と題する最終報告が公表されました。

この最終報告は、「経営環境の厳しい時代における学校法人の経営革新の課題を提起、私学事業団、地方自治体、私学団体等の関係機関が、経営困難な学校法人への再生支援から破綻処理までの各段階において、どのような役割を果たすべきか」について提言をまとめたものです。

また、私立大学をとりまく環境が学校法人の経営困難を生み出す原因となっていることに触れながら、個別の学校法人が経営困難に陥る主体的原因をいくつか指摘して、そのような状況を避けるために早い段階から経営改善に向けた取り組みが必要であることにも言及しています。これまで日本私大教連は、教職員との合意形成なしに一部私大の理事会による専断的な経営政策が、学校法人の経営困難を生み出している問題を指摘してきましたが、そうした問題の改善が正に急務となっていることを明示していると言えます。

ただし、最終報告は教職員に大きな影響をもたらしかねないいくつかの問題点を内包しています。以下、その問題点を指摘するとともに、日本私大教連中央執行委員会の見解を示します。

 

@私立学校における運営のあり方をめぐって

 まず初めに、最終報告では早い段階からの経営改善の取り組みを強調していますが、具体的にはガバナンスの確立と教学面の改革、さらに財務状況の改善や情報公開のあり方について言及しています。

 特にガバナンスの確立については、「経営トップは、法人と学校のミッションやビジョンを全教職員に明示し、経営革新を先導することが今まで以上に求められている」と理事会の役割を強調しています。私たちは、学内構成員がそれぞれの役割を自覚して、その役割を発揮するよう努めるのは当然の責務であると考えます。

しかし昨今、いくつかの大学では、大学が進むべき方向について広範な学内合意が存在しているとは到底言えない状況のもとで、理事会のトップダウンによる急激な大学「改革」を推し進めようとする憂慮すべき事態が散見されます。

私たちは、最終報告が指摘する「学校法人の経営困難を生み出す主体要因」を助長しかねない理事会によるトップダウンの大学運営ではなく、教職員・学生の知恵と力に依拠した大学づくりをどう進めていくのか、そのことに十分留意した大学運営が今こそ求められていると考えます。

 

A経営困難度をはかるための定量的な経営指標を用いる問題をめぐって

最終報告では、定量的な経営判断指標による破綻予防スキームを確立することを強調しています。具体的には、経営困難度をはかる「定量的な経営指標」として、資金収支計算書から「教育研究活動のキャッシュフロー」を抽出して「経営指標」として用いることを提言しています。この経営判断指標として用いる「教育研究活動によるキャッシュフロー」が黒字で、かつ外部負債も10年以内で返済が可能な状態であり、更に帰属収入から消費支出を控除した帰属収支差額もプラスであれば「正常状態」と見なすという考え方を示しています。

これら3つの指標をすべて満たしていれば「正常状態」とするという判断はあいまいで、有効ではありません。3つの指標のうち、教育研究活動のキャッシュフローと帰属収支差額とは内容が重複しています。多数の大学は帰属収支差額がプラスであれば、教育研究活動のキャッシュフローはプラスとなります。またこの二つはフローの数値であり、マイナス数値が一時的、偶発的であるのかそうでないのかを判断する必要があります。「外部負債10年以内で返済可能」は意味が不鮮明です。たとえば無利子の学校債はどう扱うのでしょうか。担保内容の検討も必要です。

現在の最大の問題は、これらの指標にかぎらず、理事会が経営数値とそれらの関係、経営数値に表れない不動産や有価証券の状態について、正確な理解をもち、現状を説明することができるという水準にはないことです。財務諸表を公開する大学は増えたものの、財政内容についての説明責任を果たしてこなかったことです。責任ある機関が提言をおこなう場合、現状の水準と課題についての理解、認識を出発点にすべきです。

また、損益分岐点をどこで見極めるのかについて議論の余地はありますが、「当然のことであるが学校法人が、その教育研究を継続するためには基本金を組入れた上で収支の均衡を長期的に図る必要がある。このために基本金組み入れ後に消費収支が均衡する程度の帰属収支差額が生じていることが望ましい」と論じる部分については、消費収支差額のマイナスが大学・学校法人の財政赤字状態を示すものでは決してないことを、改めて明確にしておく必要があります。

基本金組入制度は、学校法人の採算についての正確な理解を妨げ、学内構成員との共通認識の形成を不可能にし、広く利害関係者に財政を説明するうえでの障害となってきました。私学事業団は基本金組入制度を推奨し、改善の提案を全く行ってきませんでした。この責任を自覚し、最終報告がなぜ帰属収支差額を重視しているのかをふくめ、基本金組入制度についての見解を表明する必要があります。そして各理事会に対し、学校法人会計基準に基づく経営数値が何を示し、どのような経営状況を反映しているのかを学内構成員および利害関係者に正しく説明できるよう指導する責任があります。

最終報告は、上記の経営指標を用いて、単純に経営状態を判断するよう理事会に強いることとなり、これまで基本金問題をはじめ、学校法人会計について正確な理解をしてこなかった多数の理事会を正しい経営判断から遠ざけ、無責任な対応を助長する原因となります。教職員、学生、父母、地域の協力によって、大学づくりを早急に進めなければならない大学内に多くの混乱を引き起こし、除去すべき新たな障害を作り出す原因となることは明らかです。

 

B「健全な経営の確保」を名目にした事業団・文科省の積極的・強力な「介入」の恐れについて

私学事業団は、経営困難状態(イエローゾーン)と判断した法人には「正常状態に回復することを目標にした経営改善計画の策定」を要請し、「文部科学省と共同して計画の進捗状況を把握」するとともに、「進捗状況によっては(中略)踏み込んだ文部科学省による指導・助言」が必要であることを強調しています。

このことは、従来の経営相談は学校法人からの申し込みが前提であった状況から「今後は学校法人への指導・助言を積極的に行えるような体制づくり」を目指す考えを明確にしています。また、文部科学省の「学校法人運営調査委員制度」を有効活用して、学校法人の実地調査を行った結果、抜本的な経営改善が必要と認めた場合、計画の作成と計画の審査、進捗状況のフォローアップをしていくことなどが強調されています。

しかし、これは一歩間違えば、大学に対して「健全な経営の確保」を名目にした国家監視型の体制の強化へつながっていくことが危惧されます。

個々の学校法人において、理事会が自らの経営責任を自覚することなく何らの将来計画すら示さないところも見受けられるだけに、適切な「助言・指導」の必要性があることも否めませんが、現場教職員の意見を反映した総意に基づく「経営改善計画」の策定に努めることが求められます。

 

C経営者責任に一定踏み込むものの具体的な提言は見られない問題について

さらに最終報告は、経営者自身が「経営改善計画を期限を設けて立案し、その結果を出せなければ、責任を取って辞任を表明する、又は理事会で解任されるというのは当然」との考えを示すとともに、破綻後の対応について、「学校法人が破綻に陥り、学生の修学機会を奪い、経営を途中で放棄する事態に陥った場合は、経営者はその責任を取って辞任するか、場合によっては経営者自身の私財提供や連帯保証が求められる」と理事会の経営責任や無謀な経営政策放置について、これまでには見られなかった踏み込んだ考え方を示しています。

ただし、なぜこれまで理事会の責任を問うことができなかったのかについての分析が一切示されず、理事会の責任の取り方について具体的な方策は何ら提示されてはいません。その点については、寄附行為による理事リコール規定の制定や現場の声を経営政策に反映させる仕組みづくりなど、さらに具体的な検討や提示が求められます。

また、経営改善計画の責任を理事会が負わされていることに関わって、教職員に同様の責任が負わされる危険性があるが故に、理事会の責任をより明確にしておく必要があります。

 

D教職員の賃金・退職金、雇用をめぐる問題

最終報告では、経営改善を進めるために「教職員の理解を得て雇用の削減や賃金カット求める」ことや破綻が不可避であると判断される場合、「必要な人件費や諸経費、および教職員の退職金」など整理に要する資金を残した上で、募集停止の措置を早期に判断しなければならないと言及しています。

そのような状況になった場合の教職員の転職支援方策の検討として、「経営者の責任において努力すべきである」と自助努力を強調しつつ、「教職員の人材情報を取りまとめ、データベースとして整備し、人材を必要とする学校法人等に提供する」ことで「転職支援の仕組みを検討することが望まれる」としています。

教職員の賃金・雇用をめぐる問題については、より具体的な対応を進めることが可能となる枠組みを明確化していくことが求められます。

 

おわりに

 最終報告は、冒頭で「私立大学をめぐる経営環境」が厳しさを増すもとで、「今後とも国民が安心して高等教育を受ける機会が確保」されるためには、「学校法人自身が経営改善に努めることが何よりも重要」であり、「経営基盤の強化に向けた取り組み」は、「自主性と自己責任」で行うことを強調しています。

他方、「幅広い層に対して教育を提供してきた私立大学等」の存在意義を強調するとともに、多様で多元な社会的要請に高等教育が応えるためには、「基盤的経費の拡充」が不可欠であることを指摘しています。

私たちは、この「基盤的経費の拡充」こそが、大学における教育研究の持続的な発展を可能とするだけでなく、経済的困難を抱えて修学条件を大きく妨げられ、あるいは諦めざるをえない人々が、自らの意思で誰でもいつでも大学教育を受けることができる体制づくりにつながっていくものであると考えます。

現状追認のもとで学校法人の活性化や再生などはあり得ず、大学がこれまで果たしてきた公共的な使命と役割を正当に評価した上で、高等教育費の抜本的な増額により基盤的経費を拡充することこそが、学校法人の活性化と再生に不可欠な方策であると考えます。

 

以上