日本私大教連は、文科省が2月17日に私学部参事官名で発出した「退職給与引当金の計上等に係る会計方針の統一について(通知)」について、直ちに撤回を求める要請を行いました。

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2011年329

 

文部科学大臣

 木 義明 殿

 

 

「退職給与引当金の計上等に係る会計方針の統一に

ついて(通知)」について直ちに撤回を求める要請

 

 

 文部科学省は2011(平成23)年217日、文部科学大臣所轄学校法人理事長宛に、文部科学省高等教育局私学部参事官・伊藤勲名で22高私参第11号「退職給与引当金の計上等に係る会計方針の統一について(通知)」という通知文書を発しました。

同通知は、学校法人会計基準の極めて重大な変更を行おうとするものであり、650を超える文科大臣所轄の学校法人(大学・短大・高専法人)の経営に甚大な影響を与え、経営の厳しい学校法人を破綻に追い込むものです。

日本私大教連はこれに厳しく抗議するとともに、以下のとおり要請します。

 

1.通知文書の手続きについて

 同通知の内容は、次項以下に示すとおり、学校法人会計基準の重大な変更です。その内容は、私立大学全体に深刻な影響を及ぼすものであり、すなわち高等教育全体に関わる事柄です。それにもかかわらず、国会はもとより、中教審等での議論・確認も行われていません。文科省の「学校法人会計基準の諸課題に関する検討会」でこの議論が行われたのか、何の情報も公開されていません。パブリックコメントも実施されていません。しかも通知文書には、何の根拠も示されていません。

専門家や有識者、学校法人関係者等の意見を聞くなど広範な議論も行わずに、私学部参事官名の一片の通知文書で処理されることは、極めて重大な問題です。

 したがって、直ちにこの通知文書を撤回し、各学校法人にその旨通知するよう求めます。

 

2.変更の内容について

 本通知は、学校法人会計基準に関して、(1)退職給与引当金の計上基準を期末要支給額の100%とすること、(2)有価証券の評価方法は移動平均法とすること、(3)デリバティブ取引に係る損失の処理科目と表示方法、の3点を義務づけています。以下に示すとおり、いずれも重大な問題をもつ変更ですが、とりわけ(1)はすべての私立大学に深刻な影響を及ぼすものです。

 

(1)退職給与引当金の計上基準を100%とすることについて

@これまで、退職給与引当金の計上基準は、日本公認会計士協会学校法人委員会報告第31号「学校法人の退職給与引当金に関する会計処理および監査上の取扱いについて」でも明らかなとおり、何ら定めはありませんでした。多くの私立大学は50%を基準としています。そのことは、日本公認会計士協会学校法人委員会の学校法人会計問答集第2号「私立大学退職金財団に対する負担金等に関する会計処理及び監査上の取扱いについて」において、計算方法の例示として、50%基準のケースが示されていることからも明らかです。

A現在、計上基準が50%の私立大学に、100%とすることを義務づけることは、金額においても、その影響についても、極めて重大です。私立大学全体(医歯薬系を含む四大と短大)では、現在の計上基準の平均が70%とすれば、100%を義務づけることで増加する負債は約4900億円、平均が60%とすれば約7600億円にもなり、これは私立大学等経常費補助額を大きく上回る金額です。

大規模私大では、下表のとおり、その金額は巨大になります。明治大学(09年度決算)を例にとれば、計上基準が50%である現在の退職給与引当金は約112億円です。これが100%となれば、その倍の約223億円になります。負債比率は18%から22%へ急増します。また、退職給与引当金への繰り入れを単年度で処理すれば、帰属収支差額は約47億円のプラスだったものが、マイナス64億円となります。大規模私大の負債比率は、軒並み2割を超えることになります。

 

 

現状(09年度決算)

計上基準を100%にした場合

退職給与引当金

負債比率(%)

退職給与引当金

負債比率(%)

慶應義塾大学

279.8億円

26.1

399.8億円

28.5

中央大学

 98.9億円

19.4

197.8億円

23.7

明治大学

111.7億円

17.8

223.3億円

21.8

 

中規模私大でも同様です。地方のA大学では、期末要支給額で計算すると、退職給与引当金は現在の4.9億円から17.4億円へ、負債比率は14.7%から22.9%に増加することになります。

とりわけ経営の厳しい私立大学では、影響は深刻です。負債比率が急上昇して債務超過になり、金融機関から借入金の返済を迫られたり、融資を受けられなくなること、風評被害を巻き起こることなどが当然に予想され、経営改善に努力している中小・地方私立大学が破綻に追い込まれることになります。私学部参事官名の一片の通知文書が、私大を淘汰に追いやることになるのです。

Bこれまで多くの私立大学が計上基準を50%としてきたのは、退職給与引当金について期末要支給額の100%計上という会計処理は、非現実的で、過大計上であるからです。期末にすべての教職員が一度に退職することはありません。定年まで勤めることが一般的ですから、退職金はそのときに支払えばいいのです。法人税法は、支払日基準をとっており、支払った年度に損金に計上します。

勤務期間全体についての退職金ですから、支払った年度の消費支出とするのはあまりにも遅すぎます。そこで上場企業などの大企業では、「定年までの期間」を考慮にいれて金利計算を行う100%基準を用いています。この方法は金利をどう設定するかによって違いますが、期末要支給額100%よりもかなり少額になります。ただ計算が複雑です。そこで期末要支給額の50%基準を採用している法人が多いのです。

また企業が、金利計算をいれた100%基準を採用したとき、ほぼ同時期に、土地や有価証券の時価評価をしました。退職金についての変更だけではなく、貸借対照表全体についての考え方が変わったのです。ですから100%基準を採用するのであれば、土地の時価評価等を合わせて検討するべきです。

C22高私参第11号「退職給与引当金の計上等に係る会計方針の統一について(通知)」には、なぜ100%とするのか、その根拠が何ら示されておらず、学校法人全体に多大な影響を与える指示をする公文書として、あるまじきことです。

本通知の前文には、今回の学校法人会計基準に「学校法人における財務情報等の公開の進展、会計処理等の取扱いが各学校法人によって異なる不明確さやわかりにくさの解消等の観点から」という抽象的な趣旨が述べられています。しかし、計上基準については、これまでも貸借対照表の注記に記載することが義務づけられてきました。先に触れた学校法人委員会報告第31号でも、「設定基準は、企業のように税法基準等の規制を考慮することが少ないから、設定方針の選択はかなり幅があるものと考えられるため」、貸借対照表の注記に計上基準を表示することが定めた、とされています。注記に表示すれば、不明確でもなければ、わかりにくくもありません。

D本通知の対象が文科大臣所轄法人のみであることから、学校法人の大多数を占める中高以下の学校法人を対象としていません。同一の私立学校法のもとで設立され、同一の学校法人会計基準によって経理されている学校法人制度において、大学法人だけを対象とする通知を出す根拠はどこにあるのでしょうか。公財政負担の少ない大学法人に対してのみ、負債の過大計上を求めることができることの法的根拠はないはずです。こうした差別的ともいえる通知は「会計処理等の取扱いが各学校法人によって異なる」現状を是正するという趣旨にも反しています。

 

(2)有価証券の評価方法、デリバティブ取引による損失の処理について

@有価証券の評価方法を移動平均法とすることは、退職給与引当金の計上基準に関する変更に比べれば軽微な変更です。しかし、有価証券等による資産運用に関して文科省が早急に取り組むべきは、私たち日本私大教連が2009925日に文部科学大臣宛「学校法人の資産運用に関する要請」で要求したとおり、投機的な資産運用を禁じ、各学校法人に対して、保有する有価証券(金融商品のすべて。金銭信託なども)について、学校法人の公共性にふさわしい詳細な開示基準を示したうえで、大学構成員に説明を行うよう指導することです。

Aデリバティブ取引に係る損失の処理科目や表示を規定したことも、投機を追認するものであり、容認できません。しかも、「貸借対照表に計上されている現物の金融商品と組み合わされたデリバティブ取引に係る損失で、当該金融商品に係る売却又は処分差額と区分することが困難な場合」は、表示してなくてもよいとしていることは、投機の容認にとどまらず、拍車をかけることにつながるものです。投機的な資産運用により多大な損失を発生させた私立大学(早稲田大学、立正大学、大阪産業大学、東京経済大学など)では、デリバティブを組み込んだ仕組債で損失を発生させています。「現物の金融商品と組み合わされたデリバティブ取引」、すなわち仕組債に関して、依然として開示がなされなくてよいことになります。

 

3.学校法人会計基準や公認会計士監査の位置づけを明確にし、理解不能の基本金組入制度の改正などを行うことを求めます

 「学校法人における財務情報等の公開の進展、会計処理等の取扱いが各学校法人によって異なる不明確さやわかりにくさの解消等」を実現するためには、学校法人会計基準や公認会計士監査の位置づけを明確にし、理解不能の基本金組入制度の改正などをすることこそ必要です。

 これについては、別紙の「学校法人会計基準の改正に関する要請」をもって要求します。

 

以 上